サプリメント(クレアチン)治療 Q & A

はじめに
 クレアチンは,現在運動選手の間で最も普及しているサプリメントです.健常者が運動能力向上のために経口摂取するクレアチンを,筋ジストロフィー患者が筋力低下の防止を目的に服用し効果があったという報告があります.「筋ジス臨床研究班」でも治療経験が報告されております.クレアチンは,サプリメントとして処方箋なしで買うことができますが,患者様が服用することは想定されていません.患者様における使用経験はまだ限られたもので,その有効性・安全性は確立してはいません.私たちは筋ジストロフィーの方が治療として服用することは,現段階では医師の処方箋に基づいて出される医薬品以上の注意が必要と考えています.クレアチンによる治療を希望される方は,是非筋ジストロフィーに詳しい専門医療機関で御相談になることをお勧め致します.

クレアチンって何ですか?
 クレアチンはタンパク質を作る材料であるアミノ酸の一種です.体内にあるクレアチンのほとんど(95〜98%)は骨格筋に貯えられており,残りの数パーセントが心臓,脳,精巣に貯えられています.健康な平均男性(体重70kg)のクレアチン体内量は約120gで,一日約2gが代謝されています.通常クレアチンは食品から摂取されたり,他のアミノ酸(アルギニン,グリシン,メチオニン)から肝臓や腎臓,脾臓で合成されたりします.

クレアチンの生体内での役割は?
 生体内でのクレアチンは約60%がクレアチンリン酸の形で,残りの約40%がクレアチンとして存在します.クレアチンには生体内ですぐに利用できるエネルギーの貯蔵庫としての役割があります.
 あらゆる生命活動にはエネルギーが必要です.細胞が利用できるエネルギーはATPという形で存在し,ATPはリン酸を遊離してエネルギーを放出しADPに変化します.しかし,ATPの量は限られていて,激しい運動では約1秒で枯渇してしまいます.運動を続けるには,ADPにリン酸を与えATPに戻す必要がありますが,その作用をしているのがクレアチンリン酸です.生体内のほとんどのクレアチンが筋肉に貯えられているのは,筋肉が運動の際に大量のエネルギーを必要とする臓器だからです.

クレアチンで筋肉が増える?
 クレアチンを1日20g,1週間経口服用すると,筋肉中のクレアチンが約20%増えるといわれています.クレアチンの増加率は個人差が大きいのですが,炭水化物やタンパク質と共に服用することや,トレーニングを併用することで効率良く増えるとされています.激しい運動の持続時間は,筋肉内のクレアチンの量に依存すると言われています.クレアチンの増加に伴い運動機能が上昇し,トレーニング効果とあいまって筋肉が増加することが期待されています.
 クレアチンが注目されるようになったのは,1992年のバルセロナオリンピックで100m金メダリストのリンフォード・クリスティが,クレアチンを服用していたことがきっかけでした.その後,スポーツの分野で利用が広がって,現在最も広く用いられているサプリメントのひとつとなっています.
 
クレアチンはどのようにして服用するの?
 クレアチンは筋肉に多く含まれるため,肉や魚などの食品にも含まれていますが,その含有量は約5g/kgです.スポーツ選手が服用するクレアチンは,投与開始時が1日20g,維持期が1日5g程度ですが,これだけのクレアチンを食品で摂るのは困難です.このため,クレアチンがサプリメントとして用いられているのです.
 各種疾患の患者様についての至適容量はまだ分かっていません.運動選手が運動能力向上を目的として服用する場合と,患者様が疾患の治療に用いる場合とでは,目的や内蔵機能も異なります.これまでの臨床研究は,スポーツ分野での投与量を参考にされていますが,今後更に検討していく必要があります.

クレアチンは病気の人でも有効?
 クレアチンの投与でもっとも期待されるのは,細胞のエネルギー供給量の増加です.このため,エネルギー代謝に異常のある疾患で高い効果が期待できると考えられます.最初に,ミトコンドリア脳筋症や糖原病などの代謝性疾患で有効性を認めた症例の報告が出されました.その後対象疾患が徐々に拡大され,現在では筋ジストロフィーや筋萎縮性側索硬化症,頭部外傷,ハンチントン病などでも使用例が報告されています.しかし,これまでに有効性が確立した疾患はまだありません.

筋ジストロフィーでも有効?
 クレアチンには筋ジストロフィーそのものを治す能力はありません.筋ジストロフィーに対するクレアチンの効果は,今の時点では明らかでありません.筋ジストロフィーではエネルギー代謝の異常を認めませんが,クレアチンの投与によりエネルギー貯蔵量が増えることで運動による筋肉の破壊を防止できる可能性が期待されます.
 国立療養所刀根山病院で,顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーや筋強直性ジストロフィーの患者様を含む30名程度で2ヶ月間クレアチンを投与(導入期1日20g,維持期1日5g)してみたところ,わずかですが筋力の増加を認めました.しかし,筋肉内のクレアチンの量には変化が見られず,これが本当にクレアチンの効果かどうかは確証できていません.
 国立療養所川棚病院で,重症の筋ジストロフィー(電動車椅子使用,人工呼吸器は未使用)の患者様5名に1年間クレアチンを投与した研究(初期3ヶ月1日5g,以後1日2.5g)では,5名中4名で筋力が維持され,筋細胞破壊の指標となる血清CPK値は全例で改善していました.呼吸機能では経時的な悪化がやや抑制されていました.しかし,これらが本当にクレアチンの効果であるか確認するためには,より多くの患者様による検討が必要です.
 海外でも,筋ジストロフィーに対する研究がなされており,結論はもう少し待つ必要があるでしょう.

小児の筋ジストロフィー患者が服用する際の注意点は?
 クレアチンは成人のスポーツ選手を対象とした研究がほとんどで,病気の患者様や特に小児に対する作用はわかっていません.投与量だけを考えた場合,体重が少ないのでクレアチン投与量も少なくなると考えられますが,それが本当に適切なのかについては不明です.また,成人では現れない副作用が生じる危険性もあります.いずれにせよ,クレアチンの服用については筋ジストロフィーの専門医療機関(当ホームページに掲載)でよく相談した上で決めて下さい.

クレアチンに副作用はありませんか?
 クレアチンは肉などの食物に含まれているアミノ酸の一種であり,通常量の服用では問題はないと思われます.しかし,サプリメントとして大量のクレアチンを服用すると,分解産物であるクレアチニンの血中濃度が増加し,結果的に尿量が増加して腎臓や心臓に負担をきたす可能性が考えられます.直接の因果関係は不明ですが,クレアチンを常用していたスポーツ選手の中に腎機能障害を起こしたという報告や,心不全で死亡したという報告も出てきているようです.
 一般的に,クレアチンは食後に十分な水分と一緒に服用するよう勧められています.十分な水分が必要な理由は,クレアチンの服用で脱水が生じやすいためです.食後に服用するのは,クレアチンは食後に吸収されやすいからです.比較的多く見られる副作用としては,食欲増進,発汗などが挙げられています.
 国立療養所刀根山病院で,30名程度の患者様・健常者にクレアチン投与を試みた時は,胃部不快や下痢などの消化器症状,発汗,眠気などの症状が10名以上で見られました.いずれもその程度は軽く,副作用により中止した方はおられませんでしたが,頻度は決して低いとはいえないようです.また,自己購入して服用された方の中には10kg以上体重が増えた人もおられました.急激な体重増加は筋肉や心臓への負担となる恐れがあり,適切な栄養指導と定期的な観察の下で服用する必要があると思います.
 また,クレアチンが本当に筋力を増やすと仮定すると,心臓や呼吸に過度な負担をかける可能性が問題となります.私たちの研究では,心肺機能や肝腎機能への著明な影響は見られませんでしたが,長期的な観察が重要です.クレアチンを服用される方は,事前に筋ジストロフィーの専門医療機関(当ホームページに掲載)で相談の上適切な管理の下で服用してください.

クレアチンを服用してみたいのですが?
 クレアチンを含む栄養療法は,魅力的な治療法の一つです.様々なサプリメントがスポーツ専門店や通信販売で購入できますが,病気に対する有効性や安全性の知識はまだ十分ではありません.これらのサプリメントを用いるときは,事前に筋ジストロフィーの専門医療機関(当ホームページに掲載)で相談の上,適切な管理の下で服用するようにしてください.

現在ステロイドを飲んでいますが,クレアチンに変えるべきですか?
 ステロイドの筋ジストロフィーに対する作用機序は,まだ十分には分かっていません.クレアチンの筋ジストロフィーに対する評価もまだ確定していませんが,ステロイドとは異なる機序で作用すると考えられます.クレアチンとステロイドを併用した場合,より大きな効果(相乗作用)をもたらす可能性とともにお互いの効果を打ち消す(相殺効果)可能性も考えられます.いずれにしても現時点では,詳しい作用機序や相互効果は不明です.ステロイド服用の有無にかかわらず,クレアチンの服用については筋ジストロフィーの専門医療機関(当ホームページに掲載)でよく相談した上で決めて下さい.